2013年3月21日木曜日

「晏子」 宮城谷昌光 著

晏子」 宮城谷昌光 著

 春秋時代に斉の宰相となり晏子と尊称された晏嬰とその父 晏弱の2代にわたる物語で、前半は晏弱中心で、後半が晏嬰の話です。
 父晏弱の時代に晏氏の勢力が微小で子の晏嬰が宰相になれること自体が不思議でしたが、最後まで読んでみると納得できました。晏嬰が宰相になり得たのは、まず民、社稷を第一に考え私心なく行動するという信念を身の危険を顧みず貫き通したことで人々の信頼・尊敬を得たことが大きいとは思います。ただ、春秋末期という時代背景も見逃せません。春秋末期は、君主の権威(神秘性)が低下し臣下の権力が増していく途上であり、晏嬰が使えた3人の君主たちも臣下の力を抑えることに四苦八苦していました。君主にとっては晏嬰も例外ではなく辛辣な諫言をされた場合にも感情で晏嬰を罰することができなたったのは絶対的な権力者ではなくなっている証でもあり、最終的に宰相に抜擢したのも人々に人気があり野心の少ない晏嬰を宰相にすることで保身を図る意味も大きかったと思います。「晏子」ではその辺の時代の空気も読み取れるので春秋時代を知るという意味でも興味深く楽しめました。


2013年3月1日金曜日

「風林火山」 井上靖 著

風林火山」 井上靖 著
 戦国武将 武田信玄の軍師として活躍した山本勘助を主人公とした物語。基本的には武田信玄に仕官して川中島決戦までを描いています。NHK大河ドラマの原作でもあります。

 もともと山本勘助という人物の実在自体が疑問視されており、実在したとしてもほとんどのエピソードが伝説の類でしかありません。ただ、本作ではそのことを逆手にとって自由な山本勘助像、エピソードを作り出しています。自由といっても武田信玄をはじめとする歴史的事象に関しては忠実に描いており、軍略的な駆け引き描写もされています。ただ、やはり話の中心は勘助と由布姫であり、 勘助の由布姫への愛情・恋心がひときわ純粋に見えて軍師を主人公にしているとは思えない清清しいストーリーが印象的です。